落とし文の季節
先日23日、今年初めての「落とし文」を見つけました。
これは「オトシブミ」という名前の昆虫が、葉を巻いて作った揺籃(ようらん=ゆりかご)です。中には卵が一粒だけ産み付けられていて、生まれた幼虫は揺籃の中を食べて成長し、揺籃の中でさなぎになり、そして成虫になると、揺籃に穴を開けて出てくるのです。文字どおり「ゆりかご」ですね。地面に葉っぱの巻物が落ちている様子を、昔、巻紙の手紙をわざと落として意中の人に拾わせた「落とし文」になぞらえて、「オトシブミ」と名付けられたそうです。何とも風流なネーミングです。
揺籃が落ちている以上、その直上の木には、オトシブミの成虫がいるはずです。そう思って見上げると、若葉を広げたばかりのチドリノキに、姿を見つけることができました。
長〜い首を持つ「ヒゲナガオトシブミ」のオスのように見えます。しかし今まで、アブラチャンの葉を巻く姿は何度も観察していますが、チドリノキで見たことはありません。さらに同じ木を探すと、もっと高いところに首の短いメスも発見。そしてすぐ目の前の葉っぱの隙間に、もう1匹のオスを見つけました。
体の色が、ヒゲナガオトシブミよりも明るい色をしています。どうやら「キイロヒゲナガオトシブミ」の方だったようです。この2つは、同種内の変異とされたいたり、亜種や別種とされていたり、分類がはっきりしていないそうです。同じ森で一方はアブラチャン、もう一方はチドリノキと、異なる種類の木を利用して生活しているのだから、別種にしても良いように思いますが、そんな簡単な話ではないのでしょうね。
ちなみにオスの長い首、メスを巡って争う際に、オス同士向かい合わせに組み合いながら、長さを比べるような仕草をします。どうやら首が長いオスの方が争いに強く、メスを獲得できるようです。その結果、オスの首だけがどんどん長く進化してきたのでしょう。
オトシブミの仲間は、オスとメスで形態に違いがあったり、種類によって利用する植物や揺籃の巻き方が違ったり、色々と興味深い昆虫です。そしてなんといっても、全長数ミリの小さな体で、何十倍もある木の葉を折りたたんで巻き上げる姿には、感動を覚えます。柔らかな葉が伸びた新緑の森で、卵を一粒一粒、大事に木の葉で包む様子を、是非探してみてください。
・・・ちなみにひとつの揺籃を作る作業には、過去の私のほんの数回の観察ですが、1時間半から2時間半ほどかかります。
大塚