カワガラスは、渓流に棲む焦げ茶色の地味な鳥です。名前に「カラス」と付きますが、カラスの仲間ではなく「カワガラス科」という独自のグループに属しています。大きさはスズメよりふたまわり大きいくらい。軽井沢野鳥の森では、隣接する湯川や、森の奥にあるミソサザイの沢で姿を見ることができます。ただ、意外と警戒心が強く、人の姿を見ると「ビッ・ビッ」と鳴きながら川面に沿って飛び去ってしまい、間近に観察する機会がなかなかありません。先日、ミソサザイの沢で出会ったカワガラスは、採餌行動に夢中でしばらく観察させてくれました。
「・・・・」
カワガラスが狙っているのは、カゲロウやトビケラなどの水生昆虫の幼虫です。冬の寒空の下、川の中に頭を突っ込んでは、くちばしで水底の小石をひっくり返しながら虫を探します。
「獲ったど〜」
何か白っぽいものをくわえて顔を上げました。水しぶきが上がりますが、カワガラスは濡れているように見えません。羽毛の表面が水を弾くので、羽毛の隙間には水が染み込まないのです。
「水に潜っても濡れません」
時には深みへとずかずか進んでいって、完全に水中に没することもありますが、プカリと浮かんで岩に登ると、一瞬で水滴をつるんと弾いて、もう乾いています。ものすごい撥水性です。
野鳥は私たちヒトと同じ恒温動物です。しかも私たちよりも体温が高いのです。その温度を保っているのが体を覆う羽毛で、幾重にも重なった羽毛の隙間に蓄えられた空気の層が、体の熱を逃さず、外界の寒さから身を守っているのです。もしその羽毛が濡れて、隙間に冷たい川の水が染み込んでしまったら、あっという間に低体温症になってしまうことでしょう。水を弾く羽毛に包まれた完全防水の体が、彼らが冬の渓流で生きる秘訣なのです。
大塚