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今年のMIBは?

ツキノワグマ保護管理ユニット(通称:クマチーム)の関良太です。今年4月に長野県へと移住してきまして、5月からはクマチームの一員として、日夜、業務に励んでいます。

 

現在の私の主な業務は、夜間巡回です。夜間巡回とは、軽井沢町内を早朝までに隈なく巡回し、発信器を装着したツキノワグマ(以下、クマ)の位置を調査して、早朝の追い払いを担当するベアドッグハンドラー(ベアドッグの飼育・訓練、実践活動を行っているスタッフ)に情報を共有するとともに、必要に応じて彼らのサポートをするという業務です。なお、今シーズンの夜間巡回は、クマが冬眠に備えて森の奥などを中心に活動するようになる10月末で終了しました。

 

夜間巡回のようす

 

さて、タイトルのMIBは、人気映画ではなく、Most Important Bearの頭文字です。私が考える今年のMIBは、ブルースリーというクマです。

 

6月のある日、町東部の別荘地周辺などで度々目撃されていたクマが、仕掛けたドラム缶罠で捕まりました。麻酔を投与し、体長や体重などの測定、DNA解析用の毛根などのサンプル採取、発信器の装着を行いました。

 

計測・サンプル採取・発信器装着のようす

 

性別はオス、小柄な1歳で、体重はわずか14.6kg。ピッキオが捕獲を始めた1998年以降、町内で263番目に捕獲されたクマであったため、後日「ブ(2)ルー(6)スリー(3)」と名付けられました。

 

麻酔から覚めた後、ブルースリーは学習放獣されました。学習放獣では、人の声やベアドッグの吠え声、ゴム弾などで威嚇しながら放獣することによって、「人や犬に近づくと怖い」とクマに覚えさせます。

 

学習放獣のようす(このクマはブルースリーではありません)

 

しかし、夜間巡回などで追跡してみると、ブルースリーはその後も別荘地周辺に滞在していることが分かりました。

 

ツキノワグマはまだ体が小さい生後約1年半で、母グマと別れて独り立ちします。体が成長するまでの数年間は、おそらく大きなオスグマなどを避けて人里近くを使用しがちなのでしょう。経験不足から人間に対する警戒心が薄く、目撃されることも多くなると考えられます。また、人里近くに滞在することで、ゴミや農作物に餌付いたり、偶発的に人身事故を引き起こす危険性も高まるかもしれません。

 

「ブルースリー、今夜、お前はどこにいるんだ?」「今夜は、問題ないところにいてくれよ」と祈るような気持ちで、ブルースリーを最優先に追跡する夜がしばらく続きました。

 

「人間との接点が増えがちなこの時期を何とか乗り切り、人と適切な距離を保てるクマに成長してほしい」

クマチーム全員がそう願い、一丸となって、昼夜を問わずにブルースリーの行方を捜し、必要とあれば、ベアドッグなどによる追い払いを何度も行いました。

 

その結果、どうやらブルースリーは森の奥に居場所を見つけたようで、7月以降は昼間に目撃されることがなくなり、早朝の追い払いも少なくなりました。

 

ブルースリーの行動が改善されるまでには、地域住民の方々からの貴重な情報提供や役場の方々のご尽力など、さまざまなご協力がありました。ヒトとクマの共存は簡単なことではありませんが、住民・行政・専門家が協力すれば必ず実現できる、そうブルースリーは教えてくれたような気がしています。