春の蝶と冬の蛾
3月中旬になり、軽井沢も急に暖かくなりました。「軽井沢野鳥の森」の遊歩道に残っていた雪は、かなり少なくなりました。遠くに望む浅間山も、ずいぶん山肌が見えてきましたよ。
あまりに暖かかった3月14日、野鳥の森を歩いていると、今年初めてチョウが飛んでいる姿を見つけました。遊歩道の脇の地面に止まったので、そっと近づいて姿を探します。春一番に飛び始めるチョウは、成虫で越冬する種類です。翅の裏面が枯葉そっくりなので、翅を閉じて止まると、なかなか姿を見つけられません。
写真の中央に、白っぽく色落ちしたモミジの枯葉があります。その左側に、翅を閉じて頭を右上に向けた、こげ茶色のチョウが止まっているのがわかるでしょうか? 頭の先が尖った「テングチョウ」です。しばらくすると、体温を上げるために翅を開き始めました。翅の表面には、オレンジ色の模様が入っています(1枚目の写真)。
この日、姿を見せたのはテングチョウだけでしたが、これから次々と成虫越冬のチョウたちが活動を始めるでしょう。シータテハにエルタテハ、ルリタテハ、クジャクチョウなどです。その後には蛹で越冬して春先に活動するチョウたち、コツバメやミヤマセセリ、スギタニルリシジミなどが飛び始めます。虫たちの賑やかな季節まで、あと少しです。
一方で、冬だけに姿をあらわす昆虫もいます。キビタキ休憩所に立ち寄ると、なんとベンチの上で見つけました。
「長いものが落ちている」そう思って近づくと、先端に脚が6本見え、昆虫であることがわかりました。ずいぶん長いしっぽがあるように見えますが、よく見ると粒々の集合体。どうやら卵のようです。表面に毛が生えているように見えますが、おそらく成虫の腹部に生えていた毛をのせて、カモフラージュしているのでしょう。ベンチの上なので目立っていますが、これが樹木の幹だったら、まず気が付かなかったと思います。
さて、この昆虫の正体ですが、冬に姿をあらわし、幼虫の時はシャクトリムシなので「冬尺蛾(フユシャクガ)」と呼ばれる蛾の仲間です。オスは夜の森を飛び回ってメスを捜すのですが、メスには写真のように翅がありません。たくさんの卵をお腹に抱え、体が重たいメスは、寒い冬の夜を飛び回ることを諦めてしまったのです。
翅を退化させてしまったメスの姿は、体が小さいこともあって、なかなか見る機会がありません。そんなメスを、オスはどうやって見つけるのでしょうか? そこは心配ご無用。メスはフェロモンを放出することで、匂いによってオスを惹きつけるのです。
軽井沢では、冬の始まりと終わり、気温がギリギリ氷点下にならない程度の夜に、車のヘッドライトの中をヒラヒラと舞う白っぽい蛾の姿を見かけます。それが匂いをたどってメスをさがす、オスの姿なのです。
大塚