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レラ、がんばれ!次世代を残す大仕事が始まる

いよいよレラの大仕事が始まりました。それは次世代のベアドッグをこの世に残す(繁殖と子犬を出産する)ことです。

ベアドッグ(クマ対策特殊犬)はただクマを追うだけではなく、人と接する機会も非常に多いため、繁殖犬になるための気質として、クマに対峙していく勇敢さや狩猟欲はもちろん、人と一緒に働く意欲や人懐っこさも求められます。

 


海外から来たインターンと触れ合うレラ(右)と母親のタマ(左)

 

レラは生後2ヶ月で行われたベアドッグになるための適性テストでそのすべてを持ち合わせていることがわかったため、繁殖犬としての任を受け、その後も避妊を行わずに、その時が来るのを待っていました。

そして、レラは5歳となり、繁殖適齢期を迎えました。一方、2世代目のタマとナヌックはもうすぐ10歳で、すでにシニア期(7歳以上)に入っています。

よって、現状のベアドッグ体制を維持するためには、今このタイミングで、レラの繁殖に挑戦し、子犬の育成を進めていく必要があります。

そこで、今夏のレラの発情に合わせて繁殖を試みることを決定し、昨年12月下旬から準備を始めました。当初は自然繁殖を目指していましたが、

1)今年1月下旬、米国のベアドッグ育成機関 Wind River Bear Institute(以下、WRBI)の都合により、繁殖相手のオス犬の検疫を通過させるための狂犬病のワクチン接種と抗体価検査が遅れ、レラの交配予定日(7月下旬)に間に合わない可能性がでてきたこと

2)もともとレラの発情サイクルが不安定なこと

を理由に、2月以降、凍結精液による人工繁殖に方針を切り替えました。

この方法は繁殖に臨む犬たちはもちろん、多くの関係者の協力が必要で、WRBI及び米国の精液採取の獣医師、精液輸送保管会社、かかりつけ獣医や人工繁殖手術を行う執刀獣医と綿密に調整を図りながら進めてきました。

しかし、ここからが困難の連続でした。

まずはレラのお相手であるWRBIのモーグリーの精液採取。彼はこれまでの自然繁殖では優秀な成績を納めていましたが、人工繁殖では思うように精液の採取ができず、結局、動物病院に4回も通い、ようやく1回分の繁殖に使えそうな良質な精液を得ることができました。

 


今回のレラのお相手、WRBIのモーグリー(Mowgli)

 

次にレラですが、まずは人工繁殖を行う動物病院は東京で、生まれて初めて行く場所でしたので、少しでも精神的なストレスを減らすために事前に病院を訪問し、先生や看護師の皆さんと慣れ親しむところから始まりました。

 


人工繁殖を行う東京の動物病院に事前訪問と慣らし

 

ここまでは良かったのですが、ここからが予想外のことが続きました。

過去8回の発情サイクルから推定したレラの今回の発情開始予定日は7月9日。しかし、予定日になってもその予兆がまったくありません。何と予定日から22日遅れの8月1日に発情が始まりました。また、通常は発情開始日から8~9日目に排卵の予兆があり、10~12日目に排卵、その2~3日後(発情開始から14~15日目)に繁殖適日を迎えます。ちなみに、排卵日を推定するには、発情開始後8日目頃から2~3日おきに採血を行い、そこから血清を採取。血清からバイダス値というプロジェステロン指標値を計測し、その値が急上昇すると、それから1~2日後が排卵日となります。

理論通り、レラも発情開始から8日目に採血と検査を開始。しかし、2回目、3回目と検査を繰り返してもまったくバイダス値が上昇しません。結局、彼女はかかりつけ獣医に通院しながら、10日間で4回もの採血と検査を繰り返し、発情開始から17日目を排卵日として推定することができました。

 


10日間で4回も採取した血清

 

困難はこれだけではありませんでした。バイダス値も上昇を見せ「さあ3日後に繁殖日!」というそのとき、彼女はケンネルコフ(犬風邪)に感染し、激しい咳を繰り返すようになりました。すぐにかかりつけ獣医に相談し、妊娠に影響しない抗生物質を処方していただき、人工繁殖日には何とか咳も治まりましたが、とても本調子とは言えない状況でした。

このような苦労を繰り返しながら、満を持して、去る8月20日、人工繁殖を行い、手術も無事成功しました。但し、凍結精液による人工繁殖は開腹手術を伴うため、レラもかなり負担がかかりました。術後は腹膜と皮膜の間に漿液が溜まり、縫合部から液体が漏れ出すトラブルにも見舞われました。

 


手術直後のレラ

 

今回の人工繁殖では、モーグリーやレラはもちろん、様々な関係者の方が最善の努力を尽くしてくださりました。

そして、人工繁殖日から一ヶ月後の運命の妊娠判定の日(9月21日)。これまでこの繁殖に関わったすべての方々の思いを背負いながら、かかりつけ獣医に行き、超音波診断による妊娠判定を受けました。

先生の口からは「残念ながら、受胎していません。

その場では、何とか平静を保とうとがんばりましたが、病院をあとにし、自宅でレラと二人きりになったとき、あまりのショックでレラを抱きかかえながら涙が流れました。また、私たちのNPO活動の支援者や関係者の皆さまに対して、9月中旬に今回の繁殖へのご寄付をお願いするチラシを送付していたこともあり、多く支援者の方々からのご寄付とレラの繁殖に対する温かい応援メッセージが送られてきていました。最終的には40名の方から、合計51万9千円のご寄付をいただきましたが、それらを手にしながら、再び悔しさと申し訳なさで心が張り裂けそうになりました。

しかし、ここで諦める訳にはいきません。次世代ベアドッグを残すためにも、既にご厚志を頂いている方々の想いに応えるためにも、もう一度挑戦してみようと思っています。

 

 

レラももうすぐ6歳になります。初産としての繁殖適齢期ぎりぎりの年齢です。よって、次回が彼女にとって最後の挑戦となるかもしれません。ですから次回は彼女に是非、自然繁殖をさせてあげたいと思っています。次回の発情予定は1月下旬~2月上旬です。

しかしながら、今回の人工繁殖の費用に加え、自然繁殖となると、米国からのオス犬の招致となり、WRBIスタッフやオス犬の旅費や入国手続き、人件費、滞在時のケアなど費用もそれなりにかかります。

そこで、次回は本プロジェクトの運営費を12月1日~翌1月末を目処に、All or Nothing型のファンドレイジングにReadyforで挑戦する予定です。

軽井沢でのベアドッグ活動を継承していくためにも、少しずつでもベアドッグたちが他地域でも貢献していくためにも、もう一度レラと一緒にがんばってみたいと思っています。

改めまして、皆様からのお力添えをいただけますよう、何卒よろしくお願いいたします。

田中

あなたのご支援が必要です。野生のクマを未来へ。あなたの力を私たちに貸してください。あなたのご支援が必要です。野生のクマを未来へ。あなたの力を私たちに貸してください。