木々が高い枝まで葉を茂らせると、軽井沢野鳥の森に初夏が訪れます。すると晴れた日の朝、陽が高くなり気温が上がり始めると、森じゅうが賑やかな声で包まれます。
鳥でもカエルでもないその大合唱の正体は、なんと昆虫のセミ。涼しい高原の初夏に姿を現す「エゾハルゼミ(蝦夷春蝉)」です。
先日、ハルニレの大木の根元で、今まさに幼虫の殻を脱ぎ捨て、セミになろうとしているエゾハルゼミを見つけました。

羽化するエゾハルゼミ
幼虫の背中が割れ、セミの体が出てくると、しばらくは反り返ったままじっとしています。出てきたばかりは柔らかい体が、徐々に硬くなるのを待っているのです。伸び始めた翅が、まるでガラス細工のようです。

よいしょと起き上がる
脚がある程度硬くなると、起き上がって幼虫の殻につかまり、体を引き抜きます。そして翅脈に体液を送り込むことで、水圧によって翅を伸ばしていきます。青白い体色が本来の色に変わり、飛べるようになるには、何時間もかかるようです。

翅が伸び切ったエゾハルゼミ
初夏に鳴くハルゼミの仲間は、日本では3種類が知られています。軽井沢野鳥の森で鳴いているのは、寒冷地の落葉広葉樹林をすみかとするエゾハルゼミ。浅間山麓でもアカマツが多い場所では、ハルゼミが鳴いています。そして残る1種類、ヒメハルゼミは、太平洋岸の暖かい地域だけにくらしているため、軽井沢では声を聞くことはありません。
エゾハルゼミの大合唱は、6月いっぱい聞かれます。1匹が鳴き始めると次々と呼応するように鳴き始め、大合唱になるとその音量は鳥たちのさえずりをかき消すほどです。しかし梅雨空の肌寒い日には鳴きません。これからの季節、野鳥のさえずりを聞きたければ、エゾハルゼミが鳴かない気温が低い時間帯や天候が狙い目です。そして彼らの声が聞こえなくなってしばらくすると、ヒグラシやエゾゼミが鳴き始め、軽井沢に夏が訪れます。
大塚
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