花と虫との「いろいろ」
先日の記事で、軽井沢野鳥の森が1年で最も花の種類が多い季節を迎えたとお伝えしました。その花の中には、蜜や花粉で虫を惹き寄せ、虫に花粉を運ばせることで受粉・結実する「虫媒花」が多くあります。ですから、虫が花を訪れる姿を観察する機会も増えます。今回はそんな花と虫との「いろいろ」を紹介します。
まず1枚目の写真は、サラシナショウマとミドリヒョウモン。サラシナショウマのブラシのような花には、チョウやガだけでなく、ハナアブやハナムグリなど、様々な昆虫が群がります。そしてブラシのような雄しべ・雌しべをかき分けて蜜や花粉にありついているうちに、体に花粉が付着するという寸法です。比較的、いろいろな虫が集まる花ですね。
ツリフネソウは、ラッパ型の花の奥に蜜があり、トラマルハナバチが潜り込んで蜜を吸います。すると潜り込んだハチの背中に、べったりと花粉がなすり付けられる仕組みになっているのです。ツリフネソウの花は、トラマルハナバチがギリギリ入れる大きさにできていて、彼女たち(働きバチはメスです)に受粉を依存しているのです。
トラマルハナバチは、効率よく蜜を集めるため、同じ種類の花に続けて訪れる習性があります。それは花の受粉にとっても都合が良いのですが・・・、ツリフネソウに通い続けるトラマルハナバチは、いつも同じ場所を雄しべに擦り付けている結果、次第に背中の毛が抜けてハゲてしまいます。写真のトラマルハナバチも、腹部背面の毛が、雄しべに当たる中央部分だけ、すっかり抜け落ちてしまいました。このままだといずれ、胸部の背面までハゲが進行してしまいます。
ツリフネソウから蜜を吸うのは、実はトラマルハナバチだけではありません。写真はホシホウジャクという昼行性のスズメガです。長い口吻を伸ばして、飛びながら器用に蜜を吸っていきます。その姿は、まるでハチドリのようです。
今年はホシホウジャク以外にも、ミヤマカラスアゲハやモンキアゲハ(!)が、ツリフネソウの蜜を吸う姿を観察しました。しかし、細長いストローのような口吻を花の外から伸ばして蜜を吸うこれらの虫たちは、ほとんど雄しべに触れることはないでしょう(実際、上の写真でも、ホシホウジャクの口吻は、雄しべの左側を素通りしているように見えます)。ツリフネソウにとっては「招かれざる客」なのかもしれませんね。
さて、8月20日の記事で、シシウドの花に産卵するキアゲハを紹介しました。そのシシウドたち、すっかり丸坊主になっていましたよ。まだ残る花序に、丸々と太ったキアゲハの幼虫がいました。花が終わった若い実を食べ、さらに柄の部分まで食べ進んでいます。
シシウドは、芽生えてから花が咲くまでに何年もかかる多年草です。しかも「1回稔実性」つまり何年もかけて成長し、最後のクライマックスで花を咲かせて枯れる植物なのです。・・・その最後の瞬間、たまたまフラッと飛んできたキアゲハのメスに産卵されたばっかりに丸坊主。自然界とはなんて無慈悲で厳しいのでしょうか。
ピッキオではこの秋、10月4日までの短い期間ですが、軽井沢野鳥の森で秋の花や実を観察する「秋の花実散歩」を開催します。季節の最後を彩る秋の花々や実りを、その興味深い形や習性も含めてご紹介しますよ。ご興味のある方、是非ご参加ください。
大塚